美杉旧七ヶ村ツアー

美杉生まれの曲集「ノアガリヒマチ」を携えて、旧七ヶ村を、12日間で駆け回りました。美杉村(現津市美杉町)というのは、昭和30年の合併時にできた行政区で、それまでこの地は7つの村に分かれていました。僕らが住んでいる竹原が一番東で、雲出川を上流へ、山を隔てて、八知、伊勢地、八幡、多気、下之川、奈良県を経由して、名張川流域の太郎生まで。当時の往来は今ほど容易でなく、だから、文化や風習もそれぞれに固有のものだったと想像します。

一方、かつて伊勢国の国司は、多気にあり、北畠氏が治めて、交通の要所でもありました。大和から伊勢神宮へ向かう伊勢本街道は、 石名原 ( 伊勢地 )、 奥津 ( 八幡 )、多気を通っており、江戸時代の頃は宿場町として栄えた経緯もあります。

美杉に暮らして5年、まだまだ他地区との交流までは少なく、今回地元で生まれた歌をまず地元で聞いてもらおうという趣旨で、ご挨拶の住民向け無料コンサートツアーを企画したわけでした。これまで日本全国を訪ねてツアーをしてきましたが、町内ツアーというは初めてですし、「美杉旧七ヶ村ツアー」なんて当然、史上初の試みだったでしょう。こういうことには妙にワクワクします。

ところでそれぞれの会場は、地域のみなさんが寄り易いところをイメージして相談。各地区の区長さんに周知の協力などお願いして、7つのコンサートがトントンと決まりました。歌舞音曲のこと、イベントなんて地域に迷惑をかけるものも多く、はじめましてのところでは、話がすんなり進むのか心配もしました。受け入れがよかったのは美杉の風土が為す懐の深さなのかもしれないです。

もう一つ、SNS全盛の時代に、回覧など旧式の方法のみで周知した催しでしたが、この反応もさまざまでした。若い世帯は、回覧板は読まずに回すようで、後で知った人も多く、この周知方法を面白がった僕らの感覚は、やはり旧式なんだなぁ、とも改めて感じます。

7月2日 竹原村 ちどりの里

さて、コンサートは自らが住む竹原村(旧村表記)からスタートします。7月2日、アルバムにも一曲書き下ろしている「ちどりの里」の定例産直市に合わせて開催。地物野菜のPRにも繋がってよかったですし、何より馴染みの場所からのスタートは励みになりました。

駅舎のような建物で、名松線が後ろを通るタイミングをたのしみにしてましたが、近すぎて一瞬で通り過ぎ、手を振る間もなく・・・笑

7月3日 多気村 北畠神社

翌7月3日は多気(たげ)村。北畠神社の境内での演奏を、今回特に楽しみにしていました。ところがあいにくの雨。ここは落城の地、お祭りなどをやろうとするといつも雨だとか。その話を、かえってありがたく聞いて、神社内のホールで開催。最初に篠笛で、拝殿を向いて一曲奉納させてもらいました。

予約など無い企画、当日本当に集まってくれるのかたいへん心細くもあります。ここは多気地区内の氏子250戸に案内を撒いてもらったとのことですが、大雨降る中、一人、また一人と訪ねて来てくれた時には、本当にほっとして、うれしかったです。

ライブで、祭文(さいもん)~石童丸和讃~を歌うわけですが、多気地区の一番奥に位置する丹生俣では、毎年盆踊りの最後にこの石童丸の物語を、音頭取りが音頭を取って踊るという。昨年、長いこと音頭取りをされてきた方が亡くなったとのことで、この曲の時に、雷鳴を伴って一層強くなった雨に、これも何かを感じずにはいられない出来事でした。

北畠神社の宮司さんは長い間地元の宮崎さんがお務めされていて、今回もその宮崎さんから、氏子総代会長の芝山さんを通じて話をまとめてもらいました。宮崎さんは今年で引退とのこと。新しい宮司さんとのご挨拶もできて、いい機会になりました。

7月5日 伊勢地村 新屋

七ヶ村で唯一、個人宅でのライブをお願いしました。うちのライブへもよくご参加くださってお付き合いのあった、境哲夫さんの立派なお宅。

呼び込みに笛を吹き、個人宅での開催で、みなさん少し遠慮がちに、それでも順に集まってお付き合いいただきました。

ちなみに伊勢地にも祭文はあり、今は盆踊りが中止となっていますが、音頭取りさんもいらっしゃるようで、これを機にまた聞き取りなどさせてもらおうと思っています。

7月6日 八知村 美杉中学校

美杉連山のろし太鼓の会長真柄さんから、美杉中学校の校長先生へと繋いでもらい、飛び込みで相談。職員会議に諮ってくれることになり、全校生徒向け芸術鑑賞会として、地域住民のみなさんもいっしょにどうぞ、という企画になりました。

太鼓メンバーのみんなにもお手伝いをお願いし。ちなみに僕ら夫婦もここへ越してから仲間に加わり、毎週木曜夜に中学校の一室を道場として借りて練習しています。また、中学生の太鼓の授業としても毎年7月から、文化祭のある11月まで、会長らと指導にあたっています。美杉連山のろし太鼓は、30年ほど前に発足した取り組みですが、こうして地域で生まれた芸能を地域で育てる形は、これからも続いて欲しいですし、僕にとっても学びとなっています。

さて中学生への演奏は、ここに暮らす、日々の営み、そこから生まれる音と歌。そんなテーマでじっくり演奏しました。最後に校長先生が、「みんなの周りにいつもあるもの、それを感じる心、それを大事に」とお話ししてくださり、地元の子供たちに向けてこういう機会が持てたこと、本当にうれしく思いました。

7月7日 下之川村 ヒストリーパーク塚原キャンプ場

地域に指定管理のキャンプ場施設があって、 キャンプ客のいない平日昼間に開催。 施設の場所と目的からすると、ちょっと地元の人が寄りにくいかなと不安もありました。でもロケーションが最高で。ちょっと非日常感もありましたが、木立に囲まれて、この日は美杉の森に向って気持ちよく歌いました。

誰もいない静かな森の中でのリハーサルがまた心地よかったです。

とってもいい場所で、何かキャンプ企画としてもやれそうな予感がしてます。施設管理の中村さんも「いいですねーやりましょー!」と盛り上がってくれたので、きっとそのうちに。

7月10日 八幡村 奥津駅前旧美杉樹脂工場跡

八幡地区は知り合いも少なく、会場のイメージも沸かずに、はてどこから相談したものか、とJR名松線の終点「奥津」駅前の「ひだまり」という、観光案内施設に飛び込んでみたのでした。すると、思いがけない形で話が運びます。昨年、狩猟免許を取って猟友会に(名ばかり)加入しているんですが、その美杉支部を率い、また「伊勢本街道を活かした地域づくり協議会」の役員もしている、大工の前田晋一さんと出会います。そして、「猟友会の仲間なんやし、協力せなあかんな」という流れ。ステージあるぞ、と紹介されたのが、奥津駅前旧樹脂工場跡でした。たいへん昭和レトロな佇まい。

奥津、川上、からたくさんの方が寄ってくれました。建物の老朽化もあるようですが、ここも普段使われていないのがもったいないくらい。名松線の運行と合わせた企画でもまたできたらいいな、などと、思い浮かべています。

7月13日 太郎生村 たろっと三国屋

各地区に地域づくり協議会なるものがあり、中でも太郎生は、観光、飲食、他各部会に分かれて、落語会などさまざまな企画に熱心に取り組んでおられます。三国屋さんは、もともと旅館だったのを、農家民宿として地域運営しているものです。太郎生のみなさんには、実は4年ほど前に、津市の森林セラピー基地10周年企画があった際に、森の中の蔵王堂公園を僕がコンサート会場に選んだため、さまざまにお手伝いいただきました。その時の心遣いが忘れられず、今回ごいっしょできることを楽しみにしていました。

普段から寄ることが多いせいか、みなさん和やかに楽しまれ、僕も興が乗ってついつい長いライブとなりました。おかげさまでツアーファイナルにふさわしい時間がもてました。

各地でお世話になったみなさん、集まってくれた住民のみなさん、僕の思い付きに、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

とても良いご縁ができました。今後に繋げたいと思っています。


Chojiニューアルバム『ノアガリヒマチ』
2022年5月1日発売


■収録曲
1. いやしの湯
2. 茶畑
3. 鉄人辰男の唄
4. 祭文~石童丸和讃~
5. 里山キッズ
6. コユキでドン
7. Yo’s Song (bird song)
8. ちどりの里
9. ノアガリヒマチ

Choji Official Websiteから購入できます
http://choji.jp/


 

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Choji シンガー・ソングライター

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